東海愛知新聞バックナンバー

 8月13日【土】

■被災した位牌(いはい)無償で修繕

岡崎など三河仏壇の職人有志

岡崎市を中心に300年以上の歴史を持つ三河仏壇の職人有志が、東日本大震災で被災した位牌を無償で修繕している。「自分たちにできることがあれば協力したい」と“心の復興”を手助けする活動に力を注いでいる。(竹内雅紀)

■“心の復興”手助け

「これは一体、どうしたことか」。岡崎市稲熊町の仏壇塗師・伊藤広之さん(33)は、仲間の組立師・都築数明さん(39)とともに6月末に宮城県気仙沼市などの被災地を訪問、ボランティア活動に参加した。

カーナビ上ではあるはずの建物がなく、横転した車や骨組みだけになったビルなどを見渡し、「とても現実とは思えなかった」と振り返る。避難所には、家屋は流されたが奇跡的に残った位牌などが集められていた。

「何とかならないものか」と2人は考えた。現地では、位牌を修繕するという発想がないため、「三河仏壇の技術をもってすれば直せる」と決意。持ち主が判明していて要望がある位牌を無償修繕することにした。

7月上旬から位牌が届き始めた。都築さんが木地直し、箔(は)く押し、組み立てを担当。伊藤さんが木地直しと箔押しの間に必要な漆塗りを担当している。

これまでに見たことがないほどの劣悪な状態の位牌もあった。位牌は耐水性があるわけではないため、海水に浸かると漆が浮いてしまう。ほこりがひどい場合は苛性ソーダを使った特殊な液体で洗い流す。

修繕するにはいったん分解、はがせる部分はすべてはがす。それから紙やすりで研ぎ、下地を整えて漆を上塗りする。最短でも10日間ほどかかるという。これまでに約20柱を直した。

家族の目に涙

最初に直した位牌は7月末に気仙沼市まで届けた。受け取った男性は喜び、家族の目には涙も浮かんだ。「被災地の人は意外と明るい。こっちが逆に元気をもらう」と伊藤さん。

家族で唯一生き残り「自分だけ生きているのが申し訳ない。せめて手を合わせるものが欲しい」と、位牌修繕を依頼する人もいたという。

お盆の時期までに位牌が手元にほしいと願う人が多く、ここ最近は毎日、岡崎市上青野町にある作業場で被災位牌と向き合う。「被災者のことを考えれば大変ではない。自分たちができることは、これぐらいしかないから。心の復興のお手伝いができれば」

8月下旬には再び、被災地を訪問する予定だ。


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