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東海愛知新聞

波乱の半生を童話に

さし絵も手がけ出版
元校長の豊嶋さん    岡崎

 岡崎市戸崎町の元小学校長、豊嶋典明さん(70)が、台湾で生まれた自分をモデルに童話『こうちゃん』を上梓した。裕福な生活、敗戦、引き揚げ、困窮という波乱万丈の半生を易しい文章でつづった。A5判、180ページ。装丁や、さし絵も自分で手がけた。130部を印刷し、豊嶋さんが「仲間」と呼ぶ知人や教え子に贈った。

■敗戦でどん底生活
 豊嶋さんは、父親の勤務先である台湾の台南市で、昭和11(1936)年に生まれた。台湾を統治する日本総督府の官吏の子どもとして何不自由ない生活だった。しかし、20年8月の敗戦によって生活が一変した。
 豊嶋さん一家は、応召して帰らぬ父親を残して21年6月に名古屋市千種区上野町に引き揚げ、焼け残った工場の寮の4畳半1間を借りて住んだ。
 焼け跡から鉄くずやガラスの塊を拾い集めて売った金で、イモの茎やニシンを買って食べた。小学校には、はだしで通った。台湾で坊ちゃん生活をしていた身にはつらい毎日だった。
 父親が復員して来た24年から岡崎に住むことになったが、生活の苦しさは相変わらず。中学時代は学校が終わると、部活に打ち込む友だちを横目にアルバイトで家計を助けた。
 竜海中学から岡崎高校、そして愛知学芸大学(現・愛教大)の数学科に進み、卒業後は岡崎市内の小中学校に勤めた。

■愛犬と楽しい日々
 物語の中心は、台湾時代の生活。こうちゃんには同じ年ごろの4人の友だちと、こうちゃんが生まれた年にもらわれてきた犬の「ふく」が仲間でいつも一緒だった。
 賢いふくは友だちでありボディーガードでもあった。こうちゃんは2年生のとき、米軍のB29の空襲を受け側溝で生き埋めになった。ふくが家人に知らせたおかげで助け出された。こうちゃん一家が引き揚げで台南を離れるまで家族の一員だった―。

■台湾と岡崎が故郷
 今年、古希(70歳)を迎えた豊嶋さんは「少し先に生きてきた者として、自分の体験を語っておきたいと強く意識するところがあって、本にまとめることにしました」。
 「難しい説教にならないように、こうちゃんという男の子を主人公にした童話にしました。こうちゃんは、わたしの分身です。小学校3年生までの恵まれた生活から一転してどん底へ。その時の苦しさを乗り越えたから今の自分があると思っています。若いときの苦労は買ってでもせよと言われるとおりです」と若々しい顔をほころばせた。
 豊嶋さんは60歳のとき、台南を訪れた。駅舎など昔のまま残っている建物もあったが、豊嶋さんの住んでいた家はなかった。「里帰りの飛行機から台湾が見えたときは涙、涙でした。戦争のために第一の故郷を離れた私は今、第二の故郷岡崎を大切にしたいと思います」。豊嶋さんはしみじみと話した。

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